八十八夜というのは、立春から数えて88日目、5月の1日から2日ごろで、農家にとっては、種まきや野良仕事で忙しい。
お茶の産地の静岡あたりでは、ちょうどこのころが「一番茶」の茶摘みが真っ盛り。
季節感にあふれる歌と言いたいところだが、どうも最近では、この歌詞ほどの風情はない。
「あかねだすきにすげの笠」をかぶった娘さんの姿は、もう見られないだろうし、第一、のどかな手摘みではなく、機械刈りに代わっているのが、最近の実態である。
「けたたましい音を響かせるバリカンのお化けのような機械には、もはや風情のかけらも感じない」と嘆く人も多いが、しかし、機械化による省力効果はすさまじい。
手摘みなら、熟練者でも1日にせいぜい15kgだったが、可搬式摘茶機を使うと、一台でもフル稼動させれば1日に1000kgもの収穫ができるようになったという。
単純にいえば66倍以上になる。
「のどかな手摘み」と書いた。
しかし、他の全ての農作業も同じだが、「のどか」に感じるのは、見ている人間であって、作業をしている当の本人にとっては、けっして楽ではない。
農業にせよ漁業にせよ、気まぐれな自然を相手にする仕事は、それを知らぬ者には想像できぬほどに厳しい。
情緒や風情なんぞは、当事者にとっては全く無縁と言ってもいいだろう。
掛川の製茶工場に所属している角皆さんと西川さん、製茶工場に属している鈴木さんに、農薬使用の実情を聞いてみた。
まず3人が口を揃えたのは、「農薬なしではお茶は作れない」ということだ。
「肥培管理きちんとすれば、虫は必ずつく」ということ、主力品種の「やぶきた」は炭そ病に弱く、そのための防除が必要なことが強調され、「無農薬は考えられない」という点で一致した。
このブログでは、製茶工場ごとの単位で農薬の散布を行っているが、両工場では一緒にやっている。
農協の防除暦を参考にして、いつ、何をまくかを役員が集まって決め、一斉に防除しているのだという。
「兼業の人もいるので、土、日を中心にスケジュールを組むようにしているんだが、夏場はそうもいっていられん時期もある」と、役員をしている角皆さん。
長雨が続いた時なども、「雨が降る前に済ませておいたら」
といった苦情を受けることもあり、苦労は多いようだ。
皆が一斉にやれば、病害虫を効率的に防除できるので、一斉防除方式をとっているのだが、大勢になると、それぞれの事情も色々あって、日程の調整では苦労するようだ。